あるスーパーの企業再建始末記(5)

〈前回の話は、こちら

 

ここまで、スーパーA社が辿った道筋を、おさらいしておこう。

  1. 金融機関を対象とする説明会を開催したあと、金融機関から、土地を仮差し押さえられた(なお、この土地は、スーパー店舗とは別の土地である)。この土地は、取引先に対する滞納買掛金の支払いに充てるため、売却しようとしていたものだった。
  2. 金融機関の同意を得て、土地は売却できたが、仮差押えを抹消する代償として、売却代金から滞納買掛金の支払いをマイナスした残りは、各金融機関へ配当せざるを得なかった。
  3. 土地の売却後、待っていたかのように、複数の金融機関から、貸付金の残高について、訴訟を起こされた。
  4. 訴訟が終わった後、スーパーのお店に対して、競売が申し立てられた。

 

残念ながら、「再建」というには、ほど遠い道筋である。

 

だが、先行きがどうであっても、当事者は必死である。このスーパーも、ただ拱手傍観していたわけではない。

 

A社は、債務整理を開始した後、総菜、生鮮などといった各部門毎の売上・粗利益を定期的に情報交換するようになった。

すると不思議なもので、各部門の責任者が、商品の仕入に際して量やタイミングを工夫したり、商品の陳列法法、ディスプレイに気を配るなど、改善が見られるようになった。

社長は、毎朝5時過ぎには店に出て、店内を掃除していた。

 

ただ、A社の場合、特に目新しい商品を置いていたわけではないし、周りに競合スーパーが多かったこともあり、どうしても値段競争を強いられてしまう。

A社は、粗利益率を高め、営業赤字を縮小するなど健闘していたが、なかなか黒字化できず、売上も、じりじりと下がっていった。

おまけに、お店は競売を申し立てられているのだから、競落されてしまったら、お店の存続は諦めざるを得ない。

 

もっとも、A社にも希望がないわけではなかった。理由は、以下の通りである。

  1. 競売を申し立てられたとはいえ、お店の土地建物全てが競売を申し立てられたわけではない。
    A社には、お店のほかにも、今は使われていない倉庫などの建物があったが、これらの建物の大半は未登記であり、理由は不明だが、なぜか競売申立てがされていなかった。
    ということは、競落人が、それらの建物を撤去するには、改めてA社の承諾を得るか、建物撤去を求める訴訟を提起するかしなければならず、このことは、競落をためらう要因となる。
  2. A社の近くは競合スーパーが多く、同業者は手を出しにくい。
    実際、A社のスーパー事業を買い取ってもらうべく、スポンサーも探してみたのだが、断られてしまった。
  3. A社のスーパーがある地域は人口増加がほとんど止まっているので、スーパー跡地をマンションへ転用するのは難しいと思われた。

 

 以上の理由からして、お店が入札されても、そう簡単には落札されまい、落札されなかったら競売手続期間が延びるから、その間に何か手を打てるだろうと考えていた。

 

 と、そんなとき、社長から、またしても「先生、困ったことが起きました」とのお知らせが。

 「今度は何ですか?」

 「元従業員たちから、残業代を支払えと、労働審判を起こされました。」

 「ほほう。請求額はどの程度?」

 「合計で1300万円ぐらいです」

 「そんなお金、ある?」

 「ないですよ。私だってずっと役員報酬ゼロなんだし」

 「じゃあ、何とかするしかないねえ。答弁書(訴えられた側の反論書)の提出期限は、いつですか?」

 「えーと、裁判所からの連絡文によると、10日後ですね。」

 

 ・・・え? たったそれだけしかないの? 

  

(続く)