あるスーパーの企業再建始末記(4)

(前回のお話しは、こちらです)

 

事業計画はなかなかできないは、土地は仮差押えを受けるは、

仮差押えを解除してもらったら、今度は訴訟を起こされるは・・・。

A社の再建は、まだまだ多難である。

 

訴状が届いたのは、仮差押え解除のため、土地を売却して各銀行に配当した日から、約1ヶ月後であった。

ということは、各金融機関は、既に訴訟提起の準備をしていたけれど、それを秘したままA社に土地を売らせ、ちゃっかり配当を受けたのに違いない。

なぜなら、訴訟が起こされるであろうことを知っていたのなら、A社としては、土地の売却を見合わせていたであろうからである。「裁判を起こすぞ」と言ってくる債権者のために、わざわざ手持ちの不動産を売却して配当してあげるようなお人好しはいないのだ。

(もっとも、本件では、取引先への滞納買掛金を精算するため、いずれは売却しなければならなかったろうが)

 

債権回収のためとはいえ、ひどいことをするものだ。

だが、そのことを嘆いても、裁判に勝てるわけではない。降りかかった火の粉は払わなければならない。

というわけで、私は、A社の訴訟代理人として、各金融機関と対峙することになった。

以下は、その顛末である。

 

  1. A社対B銀行
    お金を借りていた事実は争えないので、そちらについては抵抗せず、直ちに敗訴判決を言い渡された。
    ただ、A社の元社長が、A社が親族に土地を贈与していたことについて(とは言っても、土地を贈与したのは、A社が債務整理を開始する半年以上前の話である)、「詐害行為(※)である」と主張してきたので、こちらにについては全面的に争い、最終的には、訴訟提起から約2年3ヶ月後、控訴審で和解した。

     「詐害行為」とは、債務者が、積極的に財産を減らすなど債権の回収の可能性を下げることをいう。
    債務者が詐害行為を行った場合、債権者は、その行為を取り消して詐害行為以前の財産状態に戻す判決を裁判所に求めることができる(これを、「詐害行為取消権」という)。
    ただ、本来は、債務者は、自分の財産を自由に処分できるのが原則なので(これを、「私的自治の原則」という。)、詐害行為取消権を行使するためには、色々な制約が設けられている。

  2. A社対C銀行
    お金を借りていた事実は争えないが、融資の経緯に疑問があったので、A社もC銀行との間で損害を受けたから借入金の一部との間で相殺すると主張し、証人尋問までやって争ったが、訴訟提起から1年4ヶ月後、敗訴判決が下された。
     
  3. A社対D保証協会
    請求内容そのものは争えないので、返済計画を提示して、和解を望んだが、受け入れられず、訴訟提起から5ヶ月後に敗訴した。

 

結論として、B銀行との間で一部和解したほかは、全敗であった。借入をしていた事実が動かない以上、予想の範囲内ではあったが、これで、いつでも強制執行を受ける可能性が生じたわけで、A社にとってはピンチである。

 

果たして、B銀行とC銀行は、早速、スーパーの土地建物に競売を仕掛けてきた。

 

(続きはこちら