あるスーパーの企業再建始末記(3)

(前回のお話しは、こちらです)

 

 さて、こうして、A社は、金融機関説明会を開いてから1ヶ月も経たないうちに、土地を仮差し押さえられるというアクシデントに見舞われた。

 

 A社は、金融機関に対する借入金だけではなく、仕入れ先に対する仕入代金も滞納していた。そこで、この土地を売却して滞納分を精算するつもりで準備しており、購入希望者も現れていた矢先に、土地を仮差し押さえられてしまったというわけだ。

 

 さて、困った。

 A社の事業計画は、この土地を売却して、仕入れ先との取引内容が正常化することを前提にしている。

 仮差し押さえが付いたままでは土地が売れない。土地が売れなければ滞納している仕入代金を精算できない。滞納分の仕入代金を精算できなければ取引を打ち切られるかも知れない。そうなったら、「企業再建」どころか、スーパーは廃業しかない・・・。

 

 そのようなことを書面にして、仮差し押さえを行った各金融機関に、仮差し押さえを解除するよう、お願いして回ったのだが、最初の反応は、厳しいものであった。

 やれ、「建物売却代金からの当行に対する配分額を増やして欲しい」だの、「仮差し押さえ解除に応じる代わりに、他の土地に担保をつけるか、新しく保証人をつけさせてくれ」だの、「とにかくダメ」の一点張りなど、厳しい反応ばかりであった。

 

 とはいえ、この土地、既に、購入希望者がいるわけで、しかも、購入希望価格まで提示されている。つまり、その気になれば、すぐにでも売却し、売却代金から滞納仕入代金等を差し引いた残額は、各金融機関へ配当できる状態にあるということだ。

 

 他方、この土地は、各金融機関から仮差し押さえを受けていたとはいえ、担保は設定されていなかった。

 したがって、仮差し押さえをした各金融機関が、この土地を競売にかけて売却代金から配当を受けるためには、まず、訴訟を提起して、勝訴判決を得るという手順を経なければならず、そうなると、早くても、配当まで1年程度はかかる。

 それに、競売での売却代金は、通常売買に比べて値段が下がるというのが常識だ(最近、都市部では、その「常識」が崩れつつあるようだが)。

 

 各金融機関も、そのような事情は、重々承知のはずである。

 だから、今は厳しい反応だが、いずれは仮差し押さえの取り下げを受け入れるだろうと、予想していた。

 

 はたして、最初に仮差し押さえの取り下げを要請してから3ヶ月、最終的に全ての金融機関から、仮差し押さえ取り下げの同意を得た。

 そして、無事に売買契約が締結・実行され、やれやれと思ったのもつかの間、今度は、A社からこんな電話がかかってきた。

 

 「銀行から、裁判を起こされました。どうしましょう?」

 

(続く)