これまでは,相続や売買のときに登記手続が義務化されていないということで,仮設住宅や防砂ダムの建設にも支障が出ていることを説明しました。
実は,空き家問題の解決に際しても,障害となっています。
空き家となっている住宅は,平成25年の時点で853万戸であり,全住宅のうち約13.5%は,空き家であると言われています(総務省の住宅・土地統計調査)。
そして,それらの空き家のうち,賃貸用,売却用,別荘用など特定の用途がなく,住民が長期不在となっている住宅が,約318万戸存在します。
空き家を長い間放置しますと,防災,治安,衛生,景観の点で様々な問題が出てきます。
そのため,各市町村は,空き家の取り壊しに補助金を出したり,福祉施設等へ改装したりと知恵を絞っており,昨年11月19日には,市町村の取り組みを後押しすべく,「空き家等対策の推進に関する特別措置法」が成立しました。
これにより,市町村は,倒壊等著しく危険となるおそれのある空き家等を「特定空家等」とし,所有者に撤去や修繕を命令したり,所有者が従わない場合には「行政代執行」という手続によって自ら撤去等をすることができるようになりました。また,所有者を迅速に特定できるようにするため,固定資産税の課税情報を利用できるようになりました。
このように,空き家問題に取り組むための環境は整備されてきましたが,大前提として,空き家の所有者が特定されなければ,手続が進みません(厳密に言えば,「所有者不明」の場合でも手続は進められるのですが,「所有者不明」と判定するためには,それなりの調査を尽くさなければなりません。)。
そして,不動産登記が必ずしも真の権利関係を反映していないことはこれまでにも説明したとおりですし,同じことは,固定資産税の課税台帳の所有者情報についても言えることです。不動産登記も課税台帳も,所有者を探し出す取っかかりにはなりますが,それだけでは決め手にならないのですね。
つまり,これまで取られている空き家対策は,所有者が判明した後の手続についてはメニューが充実してきたが,肝心の所有者を探し出すための方法については,固定資産税の課税台帳の所有者情報を利用できるようになった以外は,手つかずのままということになります。
本当はこちらこそが大問題なのですが,登記手続を義務づけるとなると,民法の改正も必要になるなど影響が大きいですし,しかもテーマが地味で「票にならない」政策ですから,政治家が積極的に動くことは期待しにくく,これからも,不動産登記制度の根幹にメスが入ることはないまま,対処療法的な政策が続くのでしょう。