災害復興とアベノミクスと空き家問題と不動産登記制度(2)


(前回の記事は,こちら


 大規模な災害が発生したため,被災者のための仮設住宅を建設するとします。


 ところが,仮設住宅を建てるために,土地の登記を調べてみると,登記上の名義人が既に死んでいるのに相続登記がされていないことがあります。

 この場合,実際には,相続人がその土地の所有者なので,相続人を探し出すのですが,何代にもわたって相続が続き,相続人が数十人に及ぶことも珍しくありません。

 つまり,土地の中には,「誰が現在の所有者であるかを突き止めるだけでも大変な土地」というものがあります。


 それでもとにかく,所有者が突き止められたとします。

 でも,その土地の実際の面積や境界が,登記上の記載と一致しているとは限らない。後々のトラブルを避けるため,役所としては,土地を買い入れる際には,その土地の本当の面積や境界を画定させておきたいと考えます。

 

 ところが,これがまた,厄介です。

 我が国では,昭和30年代から,それぞれの土地の正確な面積や境界を画定するため,地籍調査に基づく測量が続けられていますが,測量が終わった土地は,全体の半分程度と言われています。

 したがって,仮設住宅を建てようとしている土地の測量が行われていなかったら,改めて,その土地の測量をしなければならない。そして,測量に基づいて,その土地の面積や境界を画定するには,その土地の所有者だけでなく,隣接地の所有者全員も含めて,全員が現地に立ち会いの上,境界等について合意しなければならない。

 つまり,都会に出ている不在地主なども含めて,所有者全員の日程を調整して,現地に立ち会ってもらわなければならないので,測量をする方にとっても,立ち会う方にとっても,結構な負担です。

 しかも,全員の立ち会い・合意が必要ですから,所有者の1人でも立ち会いを拒否したら,面積・境界の画定が難しくなる。


 そうやって苦労して,面積・境界を画定できたとしても,その土地を買い上げて仮設住宅を建てるには,やはり,その土地の現在の所有者である,相続人全員の承諾が必要です。

  全員の承諾がなくても,その土地の上に仮設住宅を建設することができますが,承諾しなかった相続人は,所有権に基づく妨害排除請求権として,仮設住宅の建設を取りやめるよう請求できるので,その請求が権利濫用として排斥される可能性があるとはいっても,実際上は,全員から承諾を得なければ,仮設住宅を建てるのは難しいでしょう。


 このように,仮設住宅用の土地を確保するには,法律上,超えなければならないハードルが多い。

 そのため,岩手県,宮城県の沿岸26市町村で建設された災害公営住宅は,平成26年7月末時点で計画戸数の10%に留まるとされています(日本経済新聞 平成26年9月11日)。


 また,安倍首相の唱える,いわゆるアベノミクスでは,「国土強靱化」を達成するため,公共事業を増やすことが謳われていますが,例えば,土砂災害を防ぐために砂防ダムを建設するにしても,山林は特に地籍調査が遅れているため,明治時代の地権者が今も登記上の名義人になっているというケースはざらにあります。

 しかも,山林の場合,山林価値よりも登記コストの方が高いというケースもあるでしょうから,地権者の同意を取るのはもっと大変です。地権者の立場から見れば,自分にとって特にメリットがないのに,わざわざ手間暇かけて山奥まで測量立ち会いに出かける気持ちになりにくいのは,無理のないところです。


 さらに,日本の不動産登記制度は,我が国の家屋の10%以上を占めると言われる「空き家問題」の解決にも,影を落としています。


(続く)