磐梯にて

 少し前,福島県磐梯町へ出張した際,依頼者から「徳一菩薩と慧日寺の祈り-エッセイ集<2012>」という本を頂いた。

 

 「徳一」というのは,平安時代,西暦800年代前半に磐梯地方で活躍した,「法相宗」という仏教宗派の僧侶である。一説には,藤原仲麻呂の子どもだったとも言われる。

 磐梯山が大噴火した806年頃,当時の仏教の中心地であった奈良から磐梯に下り,慧日寺他多数の寺の創建に携わり,領民の教化に努めたという。

 さらに,この徳一,天台宗の最澄,真言宗の空海に敢然と論戦を挑み,特に最澄との論争は,「三一権実論争」として,仏教界では著名であるという。

 

 以上の事柄を,私は全く知らなかったが,徳一のことを語るその依頼者は,とても嬉しそうであった。

 そして,後日,磐梯町が町民向けに配付したという,「徳一菩薩と慧日寺」「徳一菩薩と慧日寺Ⅱ」「慧日寺と山岳信仰」という,3冊の本も頂いた。

  

 内容は,論文集と申しても過言でない高度な内容であり(特に,最初の2冊),このような難しい本を作り,町民に配ったという磐梯町の見識には頭が下がる。

 

  このような,東京の歴史教科書には載っていない,しかしその地域では有名な歴史的人物は,まだまだいるだろう。そのような人物のことを調べ上げ,伝え,記録に残し続けることで,自分たちの住む所の歴史に思いを馳せることは,楽しいことに違いない。

 

 磐梯で,徳一の話を聞かせて頂いたのは,楽しいことだった。

 こういうことがあるから,地方出張もそう悪くないと思うのである。